そもそものお話。(入門編)
縁あって、社会学部の大学生からの「ライフヒストリー調査」を受けることになりました。どうやら、職業や世代ごとに分類した数人にインタビューしてその会話と時代背景から人間像を探るらしい。あまりおしゃべりは得意な方ではないのですが、依頼してきたのが娘なものですから ふたつ返事で「ハイ」と。
そんなインタビューの中で 思い出したガラスを作るキッカケを忘備録としてここにも記載しておこうと思いました。もともと、美術大学出身でもない私がガラスを始めたキッカケ。思い起こしたのは27~8年前のことでした。自宅から車で5分程度の場所にガラススタジオができました。当時はまだバブル経済が色濃く残っている時代。大阪の大学を出て、地元の専門学校の先生をしていた私にとって、お稽古事を習うのは花嫁修業の一つのようなものでした。
そんな独身OLの実家の近くにできたガラススタジオ。気になって仕方ありません。いずれは習いに行こうと思いながら、バブル崩壊とともに仕事のできるOLよりも専業主婦への憧れが強くなり結婚・転職・出産・・・特に出産は習い事をする余裕を無くしてしまいました。転職先は塾講師だったので 大学卒業以来 誰かに何かを教えることは一貫できていたのですが、初めての育児は「子供が好き」というだけでは済まされない責任やらハプニングでキモチはいっぱい。そんなバタバタした中で あっという間に10年が過ぎました。
再び「ガラス」という言葉が頭を過りだしたのは 1997年頃。18年前に遡ります。自宅で学習塾を開いていたのですが どこかで子供だけでなく大人にも何か教えたいと思うようになっていました。じゃあ、何を教えようか・・・と、思いついたのが「ガラス」です。ずっと習ってみたかったガラス。まず自分が熟知しなければ人に教えることはできません。多くの失敗をし、それを語ることにより共に歩むことの楽しさは塾講師を長年やっていて充分にわかっていました。
よし、ガラスを習おう!と、思ったのですが、これも時代の流れというものでしょうか。インターネットとの出会いが塾講師からガラス講師を目指そうと思っていた私を、思いもよらぬガラス販売への道に向かわせたのです。販売編はまた書き連ねたいと思いますね。ちなみに近日公開、作家編もお楽しみに。

なにしろ初めての工芸展なので、勝手が分からずブログに書いていいものやら、メルマガに書いていいものやら・・・サンドブラストのガラスといっても商品ではなく作品になります。美術大学出身でない私にとっては敷居が高い。
それでも縁あって、門下生の工芸展に一緒に出展させていただく機会を得られたことは本当に嬉しいことです。作った作品には、通常作家のサインを入れます。これは《私が作ったよ》という意味が込められているのですが、私はこのサインがとても苦手。そもそも贈った人や贈られる人の名前をガラスに刻む名入れ職人がスタートなので、オリジナルデザインとはいえ自分のサインに抵抗があります。
例えば 美術館に飾られるほどの大作ならばサインも必要でしょうが、どこのお家にどのような目的で飾られるか分からない工芸品にサインは必要なのかと。逆に 誰のためにどんな思いで使ってもらいたいかまで確定したものであれば、どんな小さな工芸品にもサインは必要だと思うのです。
また、作風がその作家らしさを全面に出しているものであるなら それもサインは必要だし(贋作が出回ると困りますからね)著作権の保護にもなると思います。ですが、そんなにキャリアのない私にとっては お使いいただく方のお名前を彫ることが性分にあっているのですよね。
ガラスを彫る仕事をすることは楽しいです。特にネット通販の場合、作り上げた商品がどのような方のところに行くか想像できますし、ご注文時のやりとりの中でプライベートなことを教えていただき作り手としても 遠い親戚に贈るつもりでお作りすることも多々あります。
作品としてガラスを彫る場合、それは限りなく自分のために作っているので、作り上げた時の達成感がとても大きいのです。、まるで、プールを1000メートル泳ぎ切った位の爽快感。この感覚は商品を作る時と全く別ものなのです。また、商品作りと違った観点でガラスを見ることができ 商品を作る上でのたくさんの気づきも得られます。マイブームとなりそうな作品作り。サインの問題はあるにせよ、楽しんでいます。
ですから、夢の実現というのはとても難しいことだと日々実感しています。そもそもこのガラスの仕事も自分の作ったデザインのものをお客様のために作るというのが原点でした。(一番最初にインターネットで販売したデザインは 2000年1月に売れた手書きの’ナスビ’でした。なので、ガラスの贈り物や商品というより、作品に近かったかもしれませんね。それでも、時代の流れで多くのお客さまの目に留まるようになり、デザインを作る時間もなくガラスの制作やらホームページを作ったりと 商品点数を増やしたり、目新しいインターネットのシステムに取り組んだりと・・・本当に冒頭に書いた「日々の生活に追われ・・・」状態だったかもしれません。
いつか自分の作ったデザインのものを制作したいなあと思いつつ、なかなか重い腰を上げなかったのは取引先のガラス工場を見学したり、トラビスさんとのコラボでガラスそのものをつくる現場を見る機会が多くなり、そっちに興味が移っていったという事実があります。ですから、大きく夢を修正することにしたのです。「自分の作ったガラスに自分のデザインを彫りたい」と。
ガラスにデザインを彫るといっても 同じサンドブラストを使っても手法は色々あります。そういったなかで自分が表現したいデザインというのは現在当店でおこなっている手法ではなく、前近代的なシートを手切りするというものです。しかし表現したいもののためにはその手法を身につけなくてはなりません。名入れガラスと違い、手間暇がかかる作業なのですが 「夢」に向かってガンバリマス。






